虐殺行為を告発するだけで反省の無い映画だ、戦場でワルツを

アニメの質感が非日常の世界を冷たく表現している。
ほぼ全編を通じ褐色の色合いで表現されたこのドキュメンタリー・アニメは確かに衝撃的表現方法だと思う。イスラエルのある中東方面がどのような自然環境にあり、そこでの戦争がどんな色合いを持つのか良く伝わってくる。
微妙な動きのアニメが、主人公の失われた記憶を探す旅の重たさを良く表現している。
しかし、この映画には決定的に欠けているところがある。
確かにパレスチナ難民キャンプのサブラ・シャティーラの大虐殺に関わったため、自らの記憶の忌まわしい部分を封じ込めたというのは理解できる。
だが、サブラ・シャティーラの大虐殺を実行したレバノンのファランジスト党への批判が全くない。
ちょっと調べると、ファランジスト党というのはイスラエルよりのキリスト教系民兵組織らしい。その民兵組織がイスラエルのベイルート侵攻を良い事に、難民キャンプのサブラ・シャティーラで虐殺の限りを尽くしていた時、イスラエル軍は自らの手を汚す事なく、難民キャンプを包囲し、虐殺行為を黙認していたのだ。
3日間で1000人を超える殺戮行為を目の当たりにした時、主人公が衝撃のあまりその記憶を封印したのも判らなくはない。だがその記憶をたどる旅はあくまでも彼の自己満足でしかない。
結局のところ、忘れた記憶を取り戻しただけではないのか。
なぜ、その記憶を封じ込めてしまったのか。それこそが明かされなければならない事のはずだ。
記憶が明らかになった時、19歳で戦闘に参加した主人公はいったい何を思ったのか。悪夢を見る程度の事がどうしたというのだ。オランダで大麻を回しのみしながら、かつての戦友を尋ねて当時の記憶を探るシーンに、無性に腹が立った。肝心のところが抜け落ちている映画と感じた。
2009年12月11日(金):シアターキノスクリーンA




