暴走する母性、母なる証明

悲しくも恐ろしい母の愛情を描いた傑作だ。ネタバレがありますのでご注意を。
久しぶりにガツンと来た作品だ。
殺人事件の容疑者となった若干の知的障害があると思われるトジュン。しかし、そんな息子を溺愛する母が真実を明かすために行動に出た時、思わぬ展開が繰り広げられる。
女子高生が殺された事件は世間の注目を集めるが、おざなりな警察の捜査では事件の背景など判るはずもなく、トジュンの容疑は確定しているかのように扱われる。
しかし、自分の息子にそんなことが出来るはずがないと固く信ずる母は独自に行動を起こす。
この盲目的なまでの息子への愛情がとんでもない結末を招いてしまう。
この映画の背景には韓国の急激な発展にともなう貧富の差が見て取れる。
どう見てもかなり貧しい漢方薬の店を経営する母だが、それだけでは生活も苦しいのでヤミでハリを打ち生活の足しにしている。それでもその母も、息子のトジュンも携帯だけは持っている。
そのトジュンはある日ベンツに当て逃げされるが、そのベンツの所有者はゴルフに行く途中の学者だ。
殺された女子高生の携帯は、自らと肉体関係を持った男の写真を撮るために、シャッター音が出ないように改造されている。
その女子高生は痴呆の入った祖母の為に、米と引き換えで体を売っているのだ。そして、女子高生が稼いだ米を祖母はマッコリと交換している。
女子高生が殺された現場を調べる鑑識課は、アメリカドラマのCSIの影響を受けて皆テキパキと仕事をこなす。
所得に関係なく誰でもが携帯を持ち、それだけ生活に密着したインフラが整備されている国なのに庶民と学者の貧富の差は埋めがたい。
そんな国で貧しい側の人間が持ち得るものの一つとして、母の無償の愛があるのかもしれない。
2009年11月9日(月):札幌劇場スクリーン2
暴走の果ての残酷な結末
しかしそんな母は、息子の無実を信じるあまり、事件の唯一の目撃者を息子のために殺してしまう。だが、女子高生の殺人事件は予想しない形で突然解決する。
母にとっては明らかに犯人ではない者が犯人とされてしまいトジュンは釈放され、また以前の親子水入らずの生活が戻る。
しかしこの時点で母は乗り越えてはいけない境界線を越えてしまったことを自覚していたに違いない。
後は何事もなかったように世間の目を避けて自身の残りの人生を息子に捧げようとしたのだろう。
しかし自分の全てを捧げて守った息子から、一生内心に止めておこうとした悪業の証拠を渡された時、母の心は遂に壊れてしまった。
ラストの数十分は母の証たる息子への愛情が暴走した結果を見せられるが、母たる証明としてこれほどの覚悟を持たないといけない世界は、あまりにも痛々しいく残酷だ。
すばらしい俳優陣の演技と音楽
母役を演ずる韓国の母とも呼ばれるキム・ヘジャの演技は、暴走する愛情を抑えて表現していてすばらしかった。
息子トジュンを演ずるウォンビンも韓流四天王の一人でありながら、そのイケメンさを全く感じさせない弱々しい目つきが演技派としての地位を確立したのではないだろうか。
そして全体に流れるイ・ビョンウの音楽。感情を押し殺したような静かなギターが印象に残る。
今、日本映画はアニメを除くとどうにも勢いに欠けていると思う。そんな中でこの母なる証明は、韓国映画として完全に日本の上を行っていると感じた。
お決まりの役者がお決まりのキャラを演ずる日本映画会に奮起を期待したい。




