森博嗣の「スカイ・クロラ」シリーズ
押井守監督作品のスカイ・クロラの原作である。
直接の原作であるスカイ・クロラは2001年6月が初版であるので、森博嗣ファンの方はもうとっくに読んでいることと思う。
私自身はミステリをほとんど読まないので、森博嗣の作品はこの「スカイ・クロラ」シリーズが初めてだ。
読んだのは1年ほど前で、押井守監督作品として映画化されると知ってからだ。
このシリーズは作品の時系列と発売時期が一致していないが、今は全て出そろっているのでこれから読まれる方はもちろん作品の時系列にそって読まれるのが一番と思う。
その順番だが、「ナ・バ・テア」、「ダウン・ツ・ヘヴン
」、「フラッタ・リンツ・ライフ
」、「クレィドゥ・ザ・スカイ
」、「スカイ・クロラ
」となる。
シリーズの最新刊「スカイ・イクリプス」は番外編で、シリーズに登場する人物に関係する短編集だ。だからこれはシリーズ全部を読後に読む事をすすめる。
映画のキルドレを見てその生き様に何かを感じたら是非原作のリシーズ全部を読んでもらいたい。
草薙水素を取り巻く世界
「スカイ・クロラ」シリーズは草薙水素の成長を描いた作品とも言える。
ストーリーはティーチャーをあこがれのエースパイロットとして見ていた時から始まるので、映画では謎の多い草薙水素の過去が語られる。
「ナ・バ・テア」、「ダウン・ツ・ヘヴン
」は草薙水素自身、「フラッタ・リンツ・ライフ
」がクリタ・ジンロウの物語だ。
「クレィドゥ・ザ・スカイ」が自分ではこのシリーズ一番だと思う。誰の物語かはここで明かす訳には行かない。ぜひ自身で読んでみてもらいたい。
そして最後の「スカイ・クロラ」は函南の物語だ。映画とは異なる衝撃的ラストが待っている。
シリーズを通じて多くは一人称で語られるので、その語り口に乗る事さえ出来ればスカイ・クロラの世界にどっぷりと浸ることができる。
映画を見て押井守監督が言う『僕は今、若い人たちに伝えたい事がある』
という言葉に何かを感じたら是非このシリーズ全部を読んでもらいたい。
ある意味「スカイ・クロラ」シリーズが描いている世界は今の日本とどことなく似ているからだ。
それは過去60年以上戦争を経験していない、その意味に限って言えば完全な平和が実現された日本という世界に住みながら、ニュースで世界各地の紛争を見ているのとほとんど状況が同じだからかもしれない。
そしてこの「スカイ・クロラ」シリーズは草薙水素を中心にしたキルドレ自身で語られる彼らの物語だ。一般人にはなかなか理解出来ない空に生きているキルドレのパイロットの生き様が表現されている。キルドレにとってみれば空での戦闘こそ生きている証であり、空こそ純粋で濁りが無く全くの自由を感ずる事の出来る空間なのだ。
彼らにとってみれば平和な世界に住む一般人こそ理解出来ない存在に見えるに違いない。地上の世界は空の世界の半分でしか無く、そこに真の自由、命をかける意味など見いだすことができないのだ。
そんな世界の中で消耗され再生されるキルドレのパイロット達は、次の出撃で死ぬかもしれないのに自分たちの命に関してほとんど関心を払っていない。戦闘機を操縦していない時はまるで夢の中にいるようで現実感を感じられない。
このどこかぼやっとした感覚、戦争をしていない平和な時がその逆よりはるかに良いはずなのに、どうにも生気を感じることができないこの感覚こそが押井守監督が映画で伝えたい事ではないだろうか。
いま自分たちはほぼ完全な平和が実現した日本に住んでいながら生きる意味を見失っているように見える。森博嗣はスカイ・クロラのキルドレの世界を通じて生きる意味を問いかけているのかもしれない。




